浦沢直樹はスペアを狙ったのか?

21世紀少年 下 (2) (ビッグコミックス)

21世紀少年 下 (2) (ビッグコミックス)

『20世紀少年』、最終章『21世紀少年』を読み終えて感想など。(※ネタバレ丸出しですのでご注意。)

○不満点
Amazonレビューなどを読むとやっぱりボロクソなわけですが、いわゆる謎解き部分に関しての投げ出し感はやはり否定できないと思う。カツマタ君ってあれでしょ、理科室の。あの時山根君と一緒にいたお面の子がカツマタ君で、万引き事件の後死んだ事になってしまったと。なぜフクベエと一緒にいたのか。死んだ事になってからどのように<真・ともだち>となったのか。なぜサダキヨと同じお面をかぶっていたのか。チョーさんがどのようにカツマタ君にたどり着いたのか。その辺はやっぱり描かないとまずかったんじゃないかなと思う。あとはあいつ、高須。高須とか敷島教授の娘は『MONSTER』におけるロベルト的ポジションで、ああいう妄信キャラがどのような悲劇を迎えるかあるいはどのように救われるかというのは結構大事な気がするけどこれも描かれていない。

○<ともだち>に関して(謎解き部分を一旦全部外して)
物語はヴァーチャルアトラクション内でのif世界でケンヂとカツマタ君が「友達」になれたかもしれないという可能性を提示して終わる。(あれ、フクベエはどうした?)ケンヂが万引きの件を謝罪し和解という結末を迎えたことは良かった。(というか、それしかないか)ケンジとオッチョを中心にした秘密基地の仲間たちとフクベエ・ヤマネ・サダキヨ(+カツマタ)との対峙は「スクールカースト」なんていうひどい言葉を連想させるものがあったわけで『20世紀少年』はある種の読者にはつらい物語なのではないかと前から思っていた。『耳をすませば』で鬱になったというのはネットでよく見かけるが、『20世紀少年』で鬱になったというブログ記事を見かけないのが不思議ですらある。(自分が知らないだけかもしれないけど)「どろどろした自意識をうまく処理できない少年がインチキカルトの教祖になってついには世界を牛耳る」と書くとなんとも安っぽいが浦沢直樹の画力・演出力もあってか特にフクベエが<ともだち>へと至る過程はちょっとリアリティがある。フクベエの部屋でマンガを読んでたケンヂ達が急に秘密基地に行っちゃう場面なんかはちょっと痛い。(あの場面がフクベエ視点になってるのはさすが)『耳をすませば』の辛さというのは結局、「○○しなかったことへの後ろめたさ」であって今現在の自分が夢や目標を持っていたり彼女がいたりすれば割と払拭できるものだとは思う。対して『20世紀少年』の場合は選択不可能だった状況を描いているのでいつまでたっても引きずってしまうものがある気がする。

○まとめ−浦沢直樹のスネークアイ
物語の推進力となっていたのは間違いなくミステリー的要素だったわけでその部分に不満が残ったというのは作品として成功だったとはいえないと思う。最後の方バタバタしすぎだし。でも、好きか嫌いかといわれればやっぱり好きかも。泣かされそうになった場面多かったしね。ヨシツネが一人で基地作ってたとか、マルオが体張って基地守ってたとかケロヨンがケンジに謝るところとか、サダキヨに関するエピソードとか。他にもいっぱい。ラストがオープニングの場面というのも良かった。ケンヂが「何も変わらなかった」とため息をついていた『20th CENTURY BOY』の大音響が一人の少年を救っていた・・・みたいな。音楽好きとしてはちょっと感動する。あれはifの世界なのか史実だったのかどっちなんでしょ。

友情とミステリーを核に、三丁目の夕日などとに繋がるノスタルジーフレーバー、SF要素に音楽と多くの素材を絶妙に配しながらその画力と演出力さらに天才的な伏線の張り方(嫌味じゃないですよ)であとはその解決の仕方で超最高傑作になりそうだったのに・・。12,13巻くらいまではそんな感じだったなぁ。コード進行で言えば、B♭→C7→Fsus4と引っぱりるだけ引っぱってトニックにいかなかったみたいな。違うか(笑)。神様(ボーリング場の社長ね)の言葉を借りるなら浦沢直樹もまたスネークアイをだしちゃったという所でしょうか。血の大晦日のケンヂ達を、ボーリングで両端のピン2本が残るスネークアイに例えて語っています。

あの時、200を越えるハイスコアのゲームだった。9フレーム目まで、ほとんど同じスコアで競り合った。ところが、10フレーム目・・・ケンヂはスネークアイを出しちまった。普通は、あきらめて確実に一本狙いさ。だが、あの時は、それを取りに行かなきゃケンヂに勝ちはなかった。思いっきりボールに回転つけて、ピンの外側にごく軽くヒットさせ、真横にはじくしかねぇ。奴は投げた!
どうなったと思うね?・・・ボールはピンにかすりもせず、ガターに消えていった・・・

なんかすでに『20世紀少年』そのものを暗示していたような・・。浦沢自身はどうだったんですかね、スペアを取る気だったのかどうか。NHKの番組でその辺の事を話してたみたいですけど、観てないんだよなぁ。まあ、もういいけど。結果的には惜しかったけどやっぱり好きですよ、楽しませてもらったし『20世紀少年』。

T−REX。
ちなみに小室センセイが歌ってる動画もある(笑)。自分はファンだから大丈夫だけど。