香山リカ テレビの罠

小説でもコミックでもないけど(笑)。とりあえず本なので。

 去年の衆院選自民圧勝の背景には、「小泉劇場」が無党派層や普段政治や選挙にあまり関心のない人達を取り込んだ結果とも言われるが、そこでメディア、特にテレビがどのような役割を果たしたのかというのがテーマの一冊。どうも他の著作や資料からの引用が多くて読みづらいと言うか、著者の考えの核心が見えにくいのと刊行のタイミングがちょっと遅くないかということはあるけども考えておいて損のないテーマだとは思う。

 まず、選挙後の田原総一郎筑紫哲也といった代表的TVジャーナリストの責任逃れとも取れる発言を紹介しているが(田原の「深いむなしさを覚える」というのは印象的)、そこには「意識的」「無意識的」という構図のあることを指摘している。つまり小泉やその周辺は、TVを好んで見る人達に向けてかなり意識的にワンフレーズ・ポリティクス、テレポリティクス展開したのに対し、マスコミも抵抗しているつもりでそこに取り込まれてしまったという。そしてその背景には視聴者の欲求に応えようとする「善意」があるという。
 TVが視聴者の見たい・知りたい事を分かりやすく伝えようとした結果、小泉内閣のいわば広報のような役割を果たしてしまい自民大勝の一因となったというのはそれ自体はすごく分かりやすい話なのだが、著者はテレビをはじめとしたマスコミの「無意識」に関してもう一つ別の角度から考察をしている。選挙戦の流れを完全に決めたとも言われる解散時の小泉の「殺されてもいい」会見に関して。

「命がけの真剣さ」という暗号は、それを伝えるマスコミ人には解読できなかったのに視聴者には完全保存されたまま届いた。いくらBGMやテロップで演出を施し、「私たちは小泉自民党のPRをしているわけではなく、あくまでワイドショー的なネタのひとつとしてお届けしています」という装いをこらしても、視聴者はそれを「笑ってすませる」ことはできなかった。

 肝はここですよね。一番関心あるところもここ。マスコミ関係者が本当にこんな風に思ってたかは分からないが、自分達の予想以上に小泉のメッセージを真面目に受け止める人が多かったというのはやはりあったんじゃないかと思う。郵政民営化に関する折込チラシ製作の際の企画書にはアピールのメインターゲットとして

小泉内閣支持基盤。主婦層&子供を中心/シルバー層。
具体的なことは分からないが、小泉総理のキャラクターを支持する層。内閣閣僚を支持する層。

 というのが挙げられているそうで、本書ではこういった人々が衆院選の選挙戦略においても徹底的に狙われた可能性を示唆している。だとすると、気になるのはこのターゲットにされた人達がどの程度のリテラシーを持っているか、どの程度「イノセント」なのかという事ですね。本書では「沈黙の螺旋」という世論形成に関する理論や不安から目を逸らした結果としての「自他未分化幻想」というキーワードを交えながら論を進めるのだけどこの「イノセントさ」に関してもうちょい突っ込んで書いて欲しかった。「テレビの罠」というテーマからは逸れちゃうか。どうしても、ここ数年量産される「感動作」の人気と関連付けたくなっちゃうんだよなぁ・・。

 ちょっとだけヒントになったのがベスト新書の「感動禁止!」で、「感動させてくれ」というエゴとイノセントさについて書かれてる一冊。ただこの本もちょっと問題があって、着想というか導入部が冬ソナのファン層である団塊の世代の文化史的な章から始まっていて、80年代の消費による自己実現からオウムの誕生とかまでダーっと追ってくんですが、「感動作」と剥き出しの「イノセント」が爆発的に増えた(ように見える)ここ数年とそれらの時代とのリンクに関してあまり説明されてなくて全体像が掴みにくいんですね。あとはまあ文章が個人的に嫌い(笑)。全然話題にならなかったけど平積みにしたら5冊売れて、ちょっと嬉しかった。

 どうでもいいけど、何度見てもトップをねらえ!で感動した事は誰にもいえないぜ。アニメのエンディングで万歳したくなるのってあまり無いよね(笑)。4話も好き。「2」もそろそろ見ようかな。