田中哲弥 やみなべの陰謀 (ハヤカワJA)

 全く知らない作家の全く知らない作品をたまたま手にとって読んでみたら、最高に面白かったという本好きにとってかなり上ランクの悦びを久々に味わった。大森望のコメント帯で気になって買ったんですが、いやもう本当に良かった。かなり寡作な作家だそうで、元は99年に電撃文庫で発刊された本作が現時点での最新作とか。近いうちにまた早川から新刊出るらしいですが、既刊作品の復刊もどんどんやって欲しいですね。ちょっと手に入りにくそうなので・・。
 で、この「やみなべの陰謀」ですがいわゆる連作短編のような体裁で全て読むと話の全体が見えるという構成。大まかに言えば、「自分のせいで起こしてしまった不幸をなんとかしようとする」「絶望的な未来を回避するために頑張る」という話。一篇一遍の独立性が高くてそれぞれ面白いんですが(第4部「マイ・ブルー・ヘブン」は凄いですよ)、全体像が見えたときの喜びはさらに大きい。導入部の雰囲気からして、てっきりギャグテイストなのかと思ったんだけど徐々に緊張感が増していくのは良かった。だんだん温度が上がっていってラスト間際の安部公房的な読者置いてきぼり感も好き。一回通読した後、ページめくりながら整理するといいかも。
 読後感も非常に良く(文章も上手いんじゃないか)傑作の言葉も決して嘘ではないでしょう。ただ熱心なSF読者には微妙だなぁとは思う。SF寄りなラノベとハヤカワJAとかを行ったり来たりしてる読者には間違いなくおすすめ。